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内戦終結10年目を前に
―エル・サルバドルの子どもたち― 工藤律子 貧しい民衆の側に立つゲリラと、一部の金持ちの利益を代弁する政府軍の間に、長い戦いが続いていた中米の小国エル・サルバドル。この国に、和平の風が吹いたのは、1991年から92年に変わる年越しの瞬間だった。それから、すでに10年が経とうとしている。 16年ぶりに訪れた首都サン・サルバドルは、見違えるほど整然とした、近代的な街になっていた。街角に大勢兵士が立っていた時代とは異なり、人々の暮らしは穏やかに見える。内戦終結後、この国は保守党が政権を握り続けており、経済政策においても、ほかのラテンアメリカ諸国同様、いわゆる「新自由主義」を推進し、どんどん市場を自由化しては先端産業への投資を進め、「モノの溢れる社会」を築いてきた。そんななか、私が気になるのは、子どもたちの状況だ。 「内戦中より、今のほうが深刻になっているのは、ストリートチルドレンの問題です」 サン・サルバドルでストリートチルドレンの支援をするNGO「オロフ・パルメ」のストリートチルドレン・プログラム・コーディネイター、ティート・ロペスさん(33)は、そう話す。彼の所属する団体は、1983年から、内戦の犠牲になった子どもたち…難民や孤児…のケアを、地域ベースにおこなってきた。が、87年より、働く子どもたちを含むストリートチルドレンもケアの対象に入れ、92年以降は特に、路上暮らしの子どもたちへの対応に力を注いでいる。 「内戦中は、その直接の犠牲者が大半でしたが、今は、急速な経済自由化によって更に顕著になってきた極貧状態が、家庭内での児童虐待を深刻化させ、更に多くの子どもたちを路上やドラッグへ走らせています。大人も子どもも、精神的により追い込まれているんです」 ティートさんによると、現在エル・サルバドルには約500人の路上暮らしのストリートチルドレンがおり、その半数は、首都サン・サルバドルにいるという。その約10%が少女だ。年齢は、大体7から18歳で、なかには大人も混じっている。現在、彼らストリートチルドレンが抱える一番深刻な問題は、ドラッグとHIV感染だ。 「かつて、ストリートチルドレンのドラッグ問題は、悪い大人が子どもたちに、路上での空腹や辛い思いを紛らわすために、麻薬を売りつけることから始まっていました。しかし、今は子どもたちの出身地域(スラム)内で、すでにドラッグの使用が広まっており、ストリートチルドレンは路上に出るまえから、それを使う習慣を身に付けています。だから、路上での中毒症状がより深刻なのです」 日本ではあまり知られていないが、エル・サルバドルは、麻薬の密輸ルートの一つであり、また今はその一大消費地域でもあるという。路上の子どもたちは、それでなくても、家庭での虐待経験など、辛い記憶をなんとか忘れたいと願っているのだから、そこへ手軽で効果的な「気晴らし」=ドラッグが現れれば、誰もが手を出しても仕方がない。それが、子どもたちの状況を悪化させている。ちなみに、路上の子どもたちは、物乞いや簡単な芸をすることで、日に50コロン前後(約650円)稼ぐ。これはこの国の最低賃金に近い金額で、200円もしないシンナー類を買うには十分な額だ。だから中毒が広がる。 もう一つの問題=HIV感染は、メキシコシティの場合と同様、性的虐待や子ども同士の無防備なセックス、売春が、その原因と考えられる。その感染率を低くするには、子どもたちを含む、社会全体のHIVに関する意識・知識を高める努力が必要であり、またその感染者に対する早期な対応ができる機関の設立が望まれる。今のところ、エル・サルバドルには、5歳以下の幼児感染者以外のHIV感染者やエイズ患者へのケアを行う機関が、まったくない。 「ストリートチルドレンの問題は、日々複雑になっていて、対応がとても困難です。それでもなお子どもたちに手を差し伸べていくためには、支援に携わる機関に対する更なる金銭的・人的資源が必要です。また、何より、子どもたちの家庭を追い込んでいる、グローバリゼーションのネガティブな面に、世界の政府が気づいて対策を考えることが不可欠です。この二点を、多くの人に伝えることが、大切だと思います」 突然施設を訪れた私のインタビューに快く対応してくれたティートさんは、話をそう締めくくった。 たった一日のエル・サルバドル滞在だったが、そこで聞くことのできた子どもたちの現状は、内戦の終結が、必ずしも社会の平穏と平等をもたらしてはいないこと、そしてそれは単にこの国だけの問題ではなく、世界情勢と密につながっていることを、教えてくれた。 (くどう りつこ・ジャーナリスト) |
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